障害年金が改定されても、生活保護の生活費が増えない理由

障害年金の改定が持つ本来の意味

障害年金は物価や賃金の動向を踏まえて、原則として毎年度、支給額の改定が検討される仕組みになっています。生活にかかる費用が変化していく中で、受給者の生活が極端に苦しくならないよう調整することが本来の目的です。

物価高が続く昨今の情勢の中で障害年金の改定が行われたというニュースに触れると、「少しは生活が楽になるのだろうか」と期待する人も少なくないでしょう。その感覚自体は決して不自然なものではないと思います。

生活保護を利用している場合の扱い

一方で、障害年金と併せて生活保護を利用している人にとっては、障害年金の改定がそのまま生活費の増加につながるとは限りません。生活保護制度では、障害年金は収入として扱われるため支給額が増えた場合、その分が生活保護費から減額される仕組みになっています。

その結果、障害年金が増額されても生活保護と合わせた生活費の総額はほとんど変わらない、という状態が生じます。障害年金の受給額が増えても、日々の生活の中で使えるお金が増えるわけではないのです。

増えたはずなのに変わらない

生活保護制度の仕組みでは「障害年金と生活保護は二重に給付されない」「最低限の生活を保障する制度だから、収入が増えれば減額される」という理屈は理解できます。制度としては合理的に設計・運用されているとも言えます。

それでも、障害年金が改定されたという情報を知ったあとに、実際の生活費がまったく変わらないと、「障害年金は増えたはずなのに」という感覚が残ります。これは制度を知らないから生じるものではなく、制度の中で生活しているからこそ生まれるものではないでしょうか。

障害年金と生活保護の時間軸の違い

このズレを生む背景には、年金と生活保護の制度ごとに見直しの時間軸の違いがあることです。年金は、比較的短いスパンで経済状況を反映する仕組みになっています。その一方で、生活保護の生活扶助基準は頻繁に見直されるものではなく、一定期間のデータをまとめて検証したうえで見直されることになっています。

そのため、物価の上昇が継続している局面でも、その影響がすぐに生活保護費に反映されるとは限りません。この時間差が、障害年金の改定と生活実感とのあいだにズレを生む一因になっています。

制度は合理的でも、生活実感は別にある

障害年金も生活保護も、それぞれに目的があり一定のルールに基づいて運用されています。どちらかの制度が間違っているという単純な話ではありません。

ただ、制度が合理的であることと、その制度の中で生活している人が安心して生活できていると実感できるかは別問題です。生活保護制度上の数字では最低限が守られていても、現実の日々の買い物や支払いの中で感じる負担が乖離してしまうこともあるのです。

このズレを記録として残す意味

障害年金の改定は、多くの人の生活を支えるためのものです。しかし、障害年金と生活保護を併用している人の生活では、改定の恩恵を十分に実感できない実態があります。

この現象は、個人の努力や工夫では解消できない制度同士の組み合わせによって生じるものです。だからこそ、感情的な評価を加えるのではなく、事実として記録しておくことに意味があると考えています。

今後の制度に求められる視点

生活保護の生活扶助基準は、一定期間のデータをもとに見直される仕組みが取られており、現行制度ではおおむね数年単位での検証が前提となっています。この考え方自体には、制度の安定性を保つという点での合理性があります。

しかし、近年のように物価や生活コストが短期間で大きく変動する状況が続く中では、その前提が現実と合わなくなりつつあるのではないか、という疑問も残ります。障害年金が比較的短いスパンで経済状況を反映する仕組みである一方、生活保護の基準が一定期間固定的に運用されることで、両制度を併用している人ほど、改定が行われても実際に使える生活費が増えないという影響を受けやすくなっているのが現状です。

制度の合理性を認めたうえでなお、現在の経済環境において、この見直しの時間軸が適切なのかどうかは、改めて検証される余地があるように思います。生活保護についても、一定の枠組みを維持しながら、経済状況の変化に応じてより柔軟に検証・調整できる仕組みが検討されてもよいのではないでしょうか。

制度の根幹を否定するものではありませんが、生活の現場で生じているズレに対して、制度の側が「想定外」として片付け続けてよいのか、という問いは残ります。最低限を守っているという説明だけでは、日々の暮らしの不安や負担が解消されない場面が確かに存在しているからです。

生活保護制度が掲げてきた理念を現実の生活に近づけるためにも、見直しの頻度や判断の枠組みについて、より柔軟な運用を検討する段階に来ているのではないでしょうか。制度が人を支えるものである以上、その支えが実感として届いているかどうかを問い続けること自体が、制度をより健全にするために必要な視点だと考えています。

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